ARTISTS AT 5 by Ryan Gander （KAMEL MENNOUR, 2024）

手紙をありがとう。郵便受けで久しぶりにあなたの文字を見て、嬉しい気持ちになりました。短いものでいいから、もうすこし、こうして連絡を寄越してください。便りのないのは良い便りなんて、格好つけでしょうと私は思います。

それにしてもあなたの字、おじいちゃんの書く字に似てきたわね。覚えていないでしょうが私の父（だからあなたのおじいちゃん。あなたが1歳になる前に亡くなった）は、貨物船の船乗りで、いろんな国にわたって、都度その土地の絵葉書を家に送ってくれました。あなたの家にある灰皿はだからバルセロナで買い求めたものだって、その話は何度もしたわよね。当然、その頃はインターネットなんてありません。母と一緒に、届いた手紙を何度も読んだからその字はしっかりと覚えていますよ、きれいな字だとは言わないけれど。あなたは顔も祖父によく似ているし、根無し草だし、習性まで似たのかしらね。



ARTISTS AT 5 by Ryan Gander （KAMEL MENNOUR, 2024）


「亡骸の衣にはポケットがない」、それ本当に私が言った？　私ならそんな言い回しはしないはず、天国にお金は持っていけない、くらいに言うんじゃないかしら。あなたはたくさん本を読む人だから、どこかで良いように推敲してくれたんでしょう。でもまったくもって同意しますよ。あるいは、死んだらようやくお金なんてものから解放される。だいたい、お金持ちこそ意地汚くケチなものです。これを再三言ったのは覚えています。一方で、金持ち喧嘩せずとも。これも大事なこと。何より伝えたかったのは、お金みたいな価値のないものに振り回されることだけはしてほしくない。お金で済む問題はすべて安いものだから。お金で思い出したけれど、兄にはすでに渡している結婚の祝い金、結婚を待たずして欲しいようだったら言ってね。他の兄弟が孫の顔を見せてくれたから、あなたは自由にやってちょうだい。私も、わずかばかりの貯金を元気なうちに使わないとって、ちょうど意気込んでいるのよ。また海外に一緒に行ってほしいわ。台湾は、行ったことないでしょう？　みんなで台湾に行った最後の家族旅行に、あなたは来なかったものね。間の悪い子は、いつも間が悪い。私の再婚祝いにも、あなただけ来なかったでしょうに。



ARTISTS AT 5 by Ryan Gander （KAMEL MENNOUR, 2024）


こっちの様子も書きましょう。今朝、うちの庭に優雲華の花が咲きました。すなわちクサカゲロウが卵を産みつけました。そしてあなたもよく知る毎朝の散歩道、家を出てすぐのところにある竹林から吹き込んでくる風がいよいよ冷たくなってきましたよ。春には筍が顔を出す竹林だけれど、この時期は枯葉も徐々に増えてきて竹がまだ青々しいことがいっそうにわびしい。ざさざさと、葉が音を立てて竹の間から冷えた空気を運びます。しかし竹林を抜けた先の、遮るもののない小さな溜池沿いの道は音もなく冷気を運ぶのでこちらの方が堪えます。きつい冬には氷を貼ることもある、あの溜池です。この土地は溜池ばかり多く、地図で見るとあばた顔みたい。馬鹿の一つ覚え、ここに越してきた頃からこれも何度も言っているわね。

大事な要件、あなたの子どものころの写真、同封しています。右下の日付を見る限り、5歳の頃よ。誰が撮ったんでしょうね、お父さんはこういうのは撮らないから。この頃のあなたは素性の良いゴムでできた人形のように身体が柔らかかったわね。まるで猫みたいな。

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